真空管のバイアス調整でバイアスってなに?

真空管のバイアス調整に付いては先の投稿で説明しました。それではバイアスって何でしょうか?
固定バイアス、自己バイアスってなんしょう? 
今回はその概念をイラストを使って説明してみます。

バイアスのイラスト 倒れた自転車

絵1 突然ですが慎吾くんは一人で自転車に乗れません。自転車も倒れているのでどうにもなりません。

バイアスのイラスト トランジスタ自転車を立てる

絵2 慎吾くんのところに苺明日(ばいあす)ママが来て、自転車を起こしてくれました。自転車のサドルは下いっぱいまで下げてあります。地面に座っている慎吾くんを乗せるにはもう一工夫必要の様です。

お願い:慎吾くんをサドルに座らせることだけ考えてくださいね。慎吾くんがペダルを漕げるかどうかは気にしないでください。

バイアスのイラスト トランジスタDC=0V

絵3 地面に座ったままの慎吾くんを自転車に乗せる方法がもう一つあります。ママの補助はそのままに、自転車を下げて(地面を掘って)サドルの位置を慎吾くんのお尻の高さに合わせるんです。

バイアス回路図 トランジスタと固定バイアス

絵2は、実はNPNトランジスタのバイアスに付いて説明したものでした。図1は絵2を回路図にしたものです。慎吾くんはギターからの信号を、苺明日ママはバイアス回路を、自転車はNPNトランジスタを示しています。

バイアス回路とはNPNトランジスタ(自転車)の静的な動作状態を決める(サドルの高さを決めて立てる)ための回路の事です。そして地面に座っている慎吾くんをサドルに載せる工夫がコンデンサです。コンデンサは信号だけを通して、変化しない電圧は伝えないのでサドルの位置まで信号だけを移動させることが出来ます。サドルに電池が直接付いていると信号の波形が振れませんので抵抗Rbを入れておきます。ちなみにサドルを一番下げた高さが回路図では0.7Vです。トランシスタは0.7V以上の電圧が無いと動かせないんです。(B=ベース、C=コレクター、E=エミッタ)

バイアス回路図 トランジスタとカップリングコンデンサなし

図2は絵3を回路図にしたものです。地面に穴を掘って自転車を下げれば、座っている慎吾くんを簡単に乗せることが出来ました。回路図ではトランジスタのエミッタの電圧をグランドより低い電圧にしています。サドルの高さが地面と同じになったのでコンデンサは必要なくなりました。ギターのシールドを外しても入力のベース端子がオープンにならないように念のためRbは入れておきましょう。

※ 実際の回路ではエミッタの下に抵抗が必要になりますが、今回は概念の説明なので省略しています。

バイアスのイラスト 真空管とカップリングコンデンサ

では本題の真空管の説明にいってみましょう。絵4をご覧ください。え? 苺明日ママが地中に入っちゃってるじゃないかって? すみません、私のイメージはこうなんです。だから先にトランジスタの場合のお話しを・・・。実は真空管ではサドルの位置が地面より低い位置にあるんです。ここでは、そういうものと思ってくださいね。

バイアスのイラスト 真空管DC=0V

絵5 トランジスタとは逆に、地面を掘るのではなく持ち上げると慎吾くんを自転車に乗せやすくなります。

バイアス回路図 真空管と固定バイアス

図3は絵4を回路図にしたものです。トランジスタの時と似てますね。違うのは入力のグリッド にはグランドより低い電圧が掛けられていることです。苺明日ママの事をバイアス回路と呼ぶのは同じです。(G=グリッド=入力、K=カソード、P=プレート)

バイアス回路 真空管DC=0V 

図4は絵5を回路図にしたものです。地面を上げて自転車を持ち上げれば、座っている慎吾くんを簡単に乗せることが出来ました。回路図では真空管のカソード電圧をグランドより高い電圧にしています。サドルの高さが地面と同じになったのでコンデンサは必要なくなりました。ギターのシールドを外しても入力のグリッド端子がオープンにならないように念のためRbは入れておきましょう。

バイアス回路 真空管と自己バイアス

図5は図4からのさらに一工夫です。電池には電流が流れていますから、電池を取って代わりに抵抗Rkを入れても電池の様に電圧が発生します。電圧は 電流 X 抵抗 です。わざわざ電池(=電源回路)を入れなくても抵抗を入れるだけでバイアス回路ができました。

イラスト バイアスの意味

♪ 真空管もトランジスタも 信号入れただけじゃ動かない~ ♫
♩ まず動く状態を作ってやって そこに信号を乗せるんだぜ ♪♫
♫ それがバイアス バイアスって奴さ~ ♫♬♩

改めて、バイアス調整ってなに?

イラスト バイアス電圧の意味

苺明日ママとサドルの位置に付いて説明しておきます。ママが手を動かすとサドルの位置が変わります。右の絵の様にサドルの位置(バイアス)を地面から深くすると真空管の無信号時(慎吾くんが乗っていないとき)の電流が減ります。ママの(バイアス回路の)役割は、自転車を立てておくこととサドルの高さを決めることの二つなんです。そしてこのママの手の高さを調整することをバイアス調整と呼んでいます。ママの手の高さは回路によって決めるのですが、真空管では一般的に地面(グランド)より上にはしません。

(先の投稿ではバイアスを水道のバルブに見立てて説明しました。ママの手を深くすることはバルブを閉めることに相当します)

固定バイアス、自己バイアスってなに?

 どうでしょうか、苺明日ママの役割と慎吾くんをサドルに乗せるコンデンサの働きがお分かりいただけましたでしょうか。 せっかくなので固定バイアスと自己バイアスのお話しもしておきましょう。というか、もうしてしまいました。

・固定バイアス   絵4、図3の事です。電池の電圧は変えられませんがアンプの中では電池ではなく電源が入っていて、ポッドが付いているのでこれを回せば変えられます。が、一度決めると外からは変えられません。だから固定バイアスと呼んでいます。固定バイアスの場合、同じような自転車を持ってきても自転車によって調子が違うので苺明日ママの手の高さ(バイアス電圧)を調整しなおさなくてはなりません。バイアス調整ですね。
・自己バイアス   絵5、図5の事です。電池がいらないので簡単ですね。もう一つ違うことがあるんです。似たような(全く違っていてはだめですよ)自転車を持ってきたらバイアス調整がいらないんです。理由は図5を使って説明しますね。電池を抵抗に置き換えました。新しい真空管(別の自転車)の電流が流れやすかったとします。電流が増えると抵抗Rkの両端の電圧は大きくなります。これはママの手の位置が変わった(絵6の左→右)、違う言い方をするとバイアスが深くなったことを意味します。つまり真空管の電流を減らそうとするんです。そうなんです、自動的に電流を合わせようとする力が発生するんです(全く同じ電流にはなりません)。だから、自己バイアスではバイアス調整がいらないんです。また、自己バイアスは固定バイアスの様に電源を持たず、自分で電圧を作ることから自己バイアスと呼ばれています。

バイアスとはなにか、固定バイアスと自己バイアスってなにか、なんとなく分かっていただけましたでしょうか?(ママを無理やり地面の中に埋めちゃったし、なんか今回は自信ないなぁ・・・)

※ 今回はカソード接地、エミッタ接地で説明しました。接地の意味に付いてはまた別の機会に。
※ 今回の絵は「いらすとや」さんのホームページからフリーの素材を使わせていただきました。可愛い絵ですよね~。