真空管の三定数 rpとμって何に使うの?

アンプの修理であれ作成であれ、真空管に付いて調べだすと三定数 gm、rp、μに突き当たります。ところが「rpの説明を読んでも何に使うのか分からない」という方も多いのではないでしょうか?
今回は実際にrpを使った計算例を見ていただき、体感的に分かっていただくことを目標に説明させ頂きます(gmに付いては以前の投稿を参照願います)。

rpってなに?

まずrpに付いてもう一度確認しておきましょう。
代表的な三極間である12AX7のEp:Ip特性図を図1に、その測定回路を図2に示しました。グリッド電圧を-1.5Vで測定した時の結果を赤の実線で示しましています。この時 rpは次の式で表すことが出来ます。
rp = ⊿Ep / ⊿Ip (カソード電圧一定)
  = (250V-200V) / (2.05mA-1.20mA)
  = 58.8KΩ
図1からも明らかな様にグリッド電圧が一定でもプレート電圧が変わるとプレート電流が変化することが分かります。電圧の変化に対する電流の変化、つまり抵抗ですのでこれをプレート抵抗 rpと呼んでいます。

図1

三極管Ep:Ip特性とrp

図2

rp測定回路例

rpって何に使うの?

rpはゲインを正確に出す為に使います。(いろいろな見解はあると思いますが。)
ではさっそく「正確に出す」をやってみましょう。

図3

図4

三極管接続例とrp(1)

三極管接続例とrp(2)

図3を使ってゲインを考えてみましょう。
ゲイン = gm X RL になります。gmの投稿でも書きました。
でもちょっと待ってください。図3の条件下では矢印の様に電流Ipが流れています。電流値は先の例から2.05mAになります。グリッドが入力信号で上昇すると出力であるプレートの電流がgmの値通り増加し、プレート電圧が下がります。もう一度図1を見てください。プレート電圧が下がると、他には何もしていないのにrpの傾きに沿ってプレート電流が減少します。本来であればgm分電流が増加するのに対し、rpによる電流変化分だけ減ってしまいます。この様子は図4に示した、RLと並列にrpが入った回路と等価になります。ゲインは電流の変化量が減ったこと(=負荷抵抗が小さく見えること)で減少します。結果、正確には
ゲイン = gm X (RL // rp)  ・・・   // は並列を指します。
となります。
ゲインに付いてなにか気が付きましたでしょうか。 ゲインはgmと (RL // rp)の掛け算ですから、RLを大きくすればするほどゲインは大きくなりそうです。しかしトータルの抵抗(RL // rp)は並列接続ですからRLをいくら大きくしてもrp以上には出来ません。従って、
ゲイン = gm X rp  がゲインの最大値になります。この時のゲイン(増幅率)をμと呼んでいます。
これで、真空管の三定数のrpとμ(とgm)が出そろいました。

図5

三極管接続例_rpと次接続段の影響

ついでに次段の影響も考えてみましょう。図5を参照願います。
実際の回路では、次段へ接続するための回路 CとRbが追加されます。
Rbは次段のバイアス抵抗(グリッド抵抗)です。Cは信号だけを通すコンデンサです。信号を十分に通すだけの容量値を持たせます。
ゲイン = gm X (RL // rp // Rb) となります。
ところで、もしrpがRL(およびRb)よりも十分大きい場合、それぞれが並列ですからrpを考慮する必要がなくなります。ゲインはgmとRLだけで決まることから、rpが相対的に大きい五極管では規格表にμは載っていないことが多いです。

μって何に使うの?

理解を深めるために、もう少しだけ説明させていただきます。ここまで、ゲインを求める目的でgmを中心に考えて来ました。
ゲインと言えばμ(増幅率)がありますからこちらで考えるとどうなるでしょうか?
ゲイン1 = gm X rp = μ    ・・・ RLが無い場合
ゲイン2 = gm X (rp // RL)  ・・・ RLがある場合
ゲイン1とゲイン2の比を考えてみます。 
ゲイン2 / ゲイン1 = (rp // RL) / rp
ここから、負荷にRLを使ったときのゲイン2をμを使って算出してみます。
ゲイン2 = ゲイン1 X (ゲイン2 / ゲイン1)
      =  μ    X (rp // RL) / rp
      =  μ    X ( RL /(RL + rp) )
となります。
μの値が分かっている場合は、gmを使わずに負荷抵抗RLとrpの関係からゲインを算出できます。
ちなみにRLが大きくなっていくとRL /(RL + rp)は1に近づいていき、ゲイン2はμになることが分かります。
μの使い方の一例です。
※ 抵抗R1とR2の並列接続での値Rは  R= 1 / (1 / R1 + 1 / R2) となります。

それでは設計する時に三定数を使うんですね

それが、そうでもないんです。
これまでの説明で、ゲインをgmとrpとRLを使って、またはμとrpとRLを使って算出する例をみてきました。正確にゲインを設定する、つまりRLの値を決定するにはrpが必要な事がお分かりいただけたと思います。しかし、この方法では面倒なことが起こります。例えばプレート電圧が250Vの所でgm(=⊿Ip / ⊿Eg)を求めておいても、RLを算出した時にはプレート電圧が変わりgmも変わってしまいます。250Vより、RL X プレート電流分だけ電圧が下がるためです。何度か計算しなおすか、電圧が下がった分だけ電源電圧を上げなくてはなりません。しかも、出力の振幅を出来るだけ大きく取るために電源電圧とカソード電圧の中間にプレート電圧を持って来ようとすると更に複雑です。
ところで、ゲインを先にきちんと決めておく必要があるでしょうか。
一般的なアンプではその必要はありません。ゲインは余裕をもっていればいいのです。だって、音の大きさはボリュームで決めれば良いわけですから。
となると、gmやrpから条件を決めるより、Ep:Ip特性上にロードラインを引く事で動作点を求める方法が合理的で簡単ということになります。特に真空管アンプでは三定数を使っていきなり設計を始めることはあまり多くないと考えます。

ロードラインとゲイン

RLの決め方に付いては、出力管ではEp:Ip特性(グラフの上にrpの情報が表現されていますから、知らず知らずのうちにrpを使っているとも言えます)上に最大定格の範囲内でパワーが出来るだけ大きくなるようにロードラインを引き、さらにそこから歪率を求めて決定するのが一般的かと思います。自己バイアスの場合、カソード電圧の分だけ電源電圧を上げる必要は生じます。プリに使う場合も同様ですが、ゲインを見ながら決めていくことになるでしょう(設計の進め方は人それぞれです)。図6に一例を示しました。ロードラインの傾きがRLそのものになります。ゲインは⊿Ep / ⊿Egですから約60倍になります。ロードラインの傾きを立てるほどゲインは上がるものの、中心からの対称性(歪み)は悪化していく事も分かります。ロードラインを引かずにもっと簡単に求めるには規格表内にある表の値を使うというのもあります。詳しいことは、沢山の方がていねいに説明されていますのでそちらを参考にされるのが良いかと思います。

図6

Ep:Ip特性とゲイン


※ 自己バイアス-1.5V、
電源電圧300V、
RL=100K
で説明のための例です。
※ グラフ上ではグリッドに与える電圧の電源名称であるC電源からEgではなくEcと表現されています。
※ 本グラフに次段への影響は含みません(次段はコンデンサで接続されており、左図のDC的動作点を求めるロードラインとは傾きが異なります)。

最後にGE社製12AX7の三定数を規格表から抜粋して載せておきます。横軸はプレート電流です。gmとrpが逆方向に変化しているので、μはあまり変化していませんね。

図7

12AX7 三定数例