なぜギターアンプは調整が必要な固定バイアス?(1)

 真空管ギターアンプを持っていて修理を考えたことのある方は、たいていバイアス調整という言葉を聞いたことがあるかと思います。また、もう少し調べた事がある方はバイアスには自己バイアス(カソードバイアスとも呼ばれます)と固定バイアスがあり、自己バイアスならそのまま真空管を差し替えることが出来るけれど、固定バイアスの場合は真空管を取り換えるたびにアンプを調整(バイアス調整)しなくてはならないことをご存知の方も多いのではないでしょうか?

「それなら、真空管を交換しても楽なように全部自己バイアスにすればいいのに」と思われたことはありませんか?

 もちろん、そうしない理由があるのです。
結論は、多くのギターアンプの出力が固定バイアスなのは、アンプの出力を出来るだけ大きく取りたいからなのです。
今回は、この点について説明したいと思います。

真空管の動作の基本

 本題に入る前に図1で真空管の端子名称と、図2で代表的な使い方に付いてもう一度確認しておきましょう。
多くの場合バイアスの説明をする時は三極管を用いています。自己バイアスの特長を説明しやすいからかと思いますが、ギターアンプの場合は出力管に五極管を使うことが多いため、今回は五極管で説明を進めさせていただきます。図2で五極管では一般にスクリーングリッドは入出力信号と直接の関係がないことをご確認ください。なお、五極管には6V6、6L6などのサプレッサーグリッドとカソードが内部で繋がっていまるものと、EL34など独立しているものがあります。

図1 各端子の名称(ヒータは略しています)

図2 代表的な使い方

真空管の各端子名称

真空管の代表的な使い方

 次に真空管を動作させるための一般的な条件を図3で確認しておきましょう。
ここで大事なのは、グリッドからの入力信号はカソードの電圧より低い電圧を中心に入力する必要があることです。各端子の電圧は実際の値ではなくイメージです。ちなみに、図中の-20Vの値をバイアス電圧と呼んでいます。

図3 動作させるための条件

真空管を動作させる為の条件

固定バイアスと自己バイアスの基本

 では、固定バイアスと自己バイアスの回路的な違いについて確認しておきましょう。

図4 固定バイアス

図5 自己バイアス

固定バイアスの説明

自己バイアスの説明

 図4は固定バイアスの回路例を示します。コンデンサは高い周波数の信号だけを通しますから、信号成分だけが通り抜け、コントロールグリッドの信号の中心電圧は100Vから-20Vに置き換わります。回路図には”-20V電源”としか書いてありませんが、実際には300Vの電源とは別に-20Vの電源も作る必要があります。
コントロールグリッドに加えられた入力信号電圧が上昇するとプレート電流が増加、プレートの電圧は下がります。この時増幅が行われます。入力の波形と出力の波形は向きが逆になっている事に注意してください。
また、赤い矢印はプレートからカソードに向かって流れる電流を表していますが、入力信号が無い場合でもいくらかの電流が流れています。
 図5に自己バイアス回路例を示しました。プレートとカソード間に電圧が印可されると電流(赤の矢印)が流れます。この時、Rkの値を調整することでカソード電圧を20V上げることが出来ます。この状態で、入力信号の中心電圧を0Vにします。固定バイアスでは-20Vの電源につなぐ必要があった端子は、0V(GND)にするだけで、コントロールグリッドの電圧はカソードから見て20V低くすることができます。結果、20Vの電源を作らずに抵抗1本(実際には並列にコンデンサが必要)しただけで、固定バイアスとほぼ同等の動きをさせることができました。
ただし、正確に同じ特性を得るにはプレート:カソード間の電圧を固定バイアス時と合わせなくてはなりません。その為にプレート電圧を300Vから320Vに引き上げる必要が生じます。
固定バイアス、自己バイアスそれぞれにメリット、デメリットがありますが、ここでは詳細については触れません。多くの方々が詳しく説明してくれているのでそちらを参照願います。

出力の最大値の違い

図6 固定バイアスと自己バイアスの最大出力の違い

固定バイアスと自己バイアスの最大出力の違い

 図6に、入力電圧を大きくして出力信号がどこまで歪まずに出せるかを図示してみました。固定バイアスでは300V-0V=300Vの振幅が取り出せるのに対し、自己バイアスでは300V-20V=280Vの振幅までしか出せないことがわかります。これは大きな出力電圧を得るには固定バイアスが有利であることを示しています。
(正確には、プレート電圧はカソード電圧と同じ値までは下がりません。また、今回は説明のためプレートにはトランスではなく抵抗を接続しています。詳細は同タイトルの(2)を参照願います)

結果、ギターアンプの出力ではより大きな出力を得られる固定バイアスが多く採用されています。これが真空管を取り換えるたびにバイアス調整が必要でも固定バイアスが使われている理由です。