真空管の交換時などで出てくるgmってなに?(2)

 (1)では、トランジスタを題材にreに付いて説明しました。そしてgmとはreの逆数である事、gmが分かるとゲインの計算が簡単(Gain=gmX RL)に出来ることを説明しました。
 (2)では、gmに付いて整理した後、プリ管の代表ともいえる12AX7真空管での特性図を見ながらgmに付いて説明していきます。
 実は、真空管のre(rkと書いた方が良いでしょうか)は簡単には計算が出来ません。※1仕方がないので、もう一度トランジスタを振り返ってみたいと思います。
トランジスタでは Gain = gm X RL = (1 / re) X RL でした。
では出力の電圧はどうなるのでしょうか?
出力電圧 = 入力電圧 X Gain = 入力電圧 X ((1 / re) X RL)
       = 入力電圧 / re X RL  ・・・並べ替えただけ
これは、「入力電圧を抵抗reで割ることによって一度エミッタ電流に変換し、その電流(=コレクタ電流)とRLを掛け算することで出力電圧が作られる」事を示しています。(1)で波形を計算した時もそうしていました。アナログ回路ではたいていの場合同じ考え方で増幅が行われます。とすると、入力電圧を例えば1V振ってコレクタ電流が何A変わるか見れば真空管のgmも分かりますね。 次の図1,2を見てください。

※ トランジスタは電流駆動:電流出力で、評価指標(良いとか、良くないとか)のひとつにhfe(=Ic/Ib)があります。reは前回の通りコレクタ電流で決まってしまいますからどんなトランジスタもほぼ同じ値となり評価指標としては使えません。勿論、hfeは設計売る際にも重要な値です。これに対し真空管やJFETは電圧駆動:電流出力でありhfeでは表現できず、gmの指標がとても重要になってきますし、また、設計ではなくてはならない値です。

図1

トランジスタでのgmのイメージ

図2

真空管でのgmのイメージ

gm = 出力電流の変化量 / 入力電圧の変化量となります。
だから gm X RLでGainが出るし、gmはエミッタ抵抗の逆数になるんですね。※2

※2 ここでは真空管のrpに付いて考慮していません。実際にはgmとRLだけでは正確にGainは決まりません。興味のある方はrpに付いても調べてみてください。

真空管12AX7の特性を見てみましょう

 図3は三極複合管12AX7の プレート電流:プレート電圧 特性です。
プレート電圧=250V、プレート電流1mA付近でのgmを計算してみましょう。

図3

三極真空管のコレクタ電流:コレクタ電圧特性

gm = ⊿Ip / ⊿Vg = (1.2mA – 0.5mA)/(2.5V – 2.0V) = 1.4m MHO = 1400u MHO

私が見たも資料ではgmが直読できるグラフも付いていましたので比べてみましょう。

図4

三極真空管の静特性

これを見ると、同じ条件でgmが1380u MHOと読み出せます。
先ほどの計算値とほぼ同じ値を示しました。
(このグラフではプレート電圧が250Vに限定されてしまう事に注意をお願いします。)

どうでしょうか? gmに付いて体感的に分かって頂けましたでしょうか。

補足:トランジスタの場合、現実にはreをわざわざ逆数にしてgmとして使うことはほとんどなく、reを直接使って設計を行います。今回はgmを理解して頂く為にreから説明してみました。真空管のカソードフォロアのインピーダンスは1/gmで、トランジスタの考え方と同じになります。