トランジスタ回路 どうやって設計するの?(1)

 オリジナルのエフェクタ―を設計したい、オペアンプを使ってきたけどトランジスタではどうしたらよいか分からない、そんな方は多いのではないでしょうか。また、電子工学を学んだけど数式ばかりでどうも理解できなかったという方もいるかと思います。本技術情報ではトランジスタ回路の設計方法を体感的に理解してもらいます。するとこれまで分からなかった電子工学の教科書も知らず知らずのうちに理解できるようになっていると思います。何回かに分けて進みますが、まずは基本回路から説明しましょう。

 ところで、トランジスタに付いて調べたことのある人のほとんどはhFEという言葉を知っていると思います。電流増幅率と言って、コレクタ電流/ベース電流を表したものですね。例えばhFEが100のトランジスタのベースに1μAの電流を流すとコレクタには100μAの電流が、ベースに2μAの電流を流すとコレクタには200μAの電流が流れます。アンプでは、もとの信号をトランジスタのベースに流し込み、コレクタから取り出して100倍のアンプを作るんだと思っていませんか。私は知らない頃、そう思っていました。そう思いますよねぇ。間違いではないのですがhFEのことを考えて回路を設計する人はいません。ですからhfeのことは一旦忘れてください。

※ 実際には考えないのではなく、hFEの十分に大きなトランジスタを使う前提で、考える必要がないという事です。

 突然ですが、図1の様に中に電池がひとつ入った三端子(イ、ロ、ハ)のブラックボックスを考えます。外から見た時、このブラックボックスは次の様に動きます。
(1) イ端子は入力として使いますが、電流は流れません。他のふたつの端子にいくら電流が流れてもイ端子には流れません。
(2) ロ端子は常にイ端子より0.7V低い電圧が出ます。
(3) ハ端子の電圧は他のふたつの端子電圧とは無関係に動きます。そしてハ端子にはロ端子と同じ電流が流れます。

トランジスタのブラックボックス

 ここからはクイズです。
 このブラックボックスを使って、なんとか二倍のアンプを作れないでしょうか。(1)、(2)、(3)はそのルールです。使うのはこのブラックボックスとふたつの抵抗、それに電源用の電池だけです。そして使う知識はΩの法則だけです。
 私はふたつの抵抗R1とR2、そして電池を図2の様に繋いでみました。
 この時の動作を想像してみます。入力の電圧が振れると、入力よりも0.7V低い値でロ端子の電圧が振れます。ロ端子の電圧が振れると抵抗R1に流れる電流が変化します。R1に流れる電流はそのままR2に流れる電流になります。R2に流れる電流が変化すするとR2の両端の電圧が変化します。
次が重要です。R1に流れる電流の変化とR2に流れる電流の変化は同じですが、R2の抵抗値をR1の抵抗値の2倍にしておくと、R2の両端の電圧変化はR1の両端の電圧変化の二倍になります。R2の両端の電圧を出力から取り出すと二倍のアンプになっていませんか?どうです?たくらみ通り動くか、詳しく見ていきましょう。

ブラックボックスのアンプ

 それでは具体的な値を入れて確認してみましょう。図3aでまず入力の電圧を3.0Vにしました。ロ端子の電圧VLは、入力端子より0.7V低いので2.3Vになります。ロ端子に流れる電流は2.3V/1KΩ=2.3mAとなります。ハ端子に流れる電流は、ロ端子に流れる電流とおなじですから2.3mAになります。最後にハ端子の電圧です。2KΩの両端の電圧が4.6Vですから、電源10V-4.6Vで5.4Vになります。この電圧が出力電圧になります。入力が3.5Vと2.5Vの時も同様の手順で図3bと図3cに計算してみました。

ブラックボックスでの動作を計算

 次に計算した結果をグラフにしてみます。最初に入力が3V、1秒後に3.5V、2秒後に3V、3秒後に2.5V、そして4秒後に3Vとなったとします。図3a,3b,3cの結果を時系列に並べてみます。

ブラックボックスでの波形

 グラフから二倍のアンプが出来ているのが分かると思います。また、入力(イ端子)と出力(ハ端子)が逆相になっている事や、1秒の時点で入力と出力の間の電圧が近づいている事も分かると思います。そして、ここまで来るとこのアンプのゲインは R2/R1=2 で決まっていることも分かると思います。(hfeを使った計算は出てきませんでしたね)

 ここでブラックボックスに付いてお話しします。もうお分かりかと思いますが、ブラックボックスはトランジスタそのものです。ブラックボックスの各端子とトランジスタの各端子は図4a~図4cの様になっていますので確認してください。トランジスタの動きがイメージ出来ましたでしょうか。

ブラックボックスの解体

 図5とグラフ2にブラックボックスをトランジスタに置き換えたものを載せておきます。

トランジスタの基本回路
トランジスタ基本回路の波形

 注意点です。図6とグラフ3を見てください。グラフの太い線は入力を大きくしたところです。あまり大きくすると出力はエミッタとぶつかります。出力はエミッタより下がりませんので出力が歪んでしまいます。

トランジスタ基本回路の注意点
トランジスタ基本回路の注意点 波形

 課題:ゲインは大きくしたいし出力にも大きな波形を出したい。どうすれば良いのでしょう?無信号時の入力電圧、R1とR2の抵抗値、電源電圧を自分で決めてみましょう。

 参考:大きな出力を出すには、無信号時の出力電圧を電源電圧の半分くらいにするのが良いでしょう。その場合取れるゲインはR2/R1というよりVR1/VR2で制限されることに気が付きます。そうなると無信号時の入力電圧を出来るだけ下げることが有利になります。とは言え、0.7Vまで下げてしまうと入力信号が下がった時に歪んでしまいます。これを避けるために電源電圧を上げるのは有効な手段になります。

 如何だったでしょうか。なんとなく回路設計が見えてきましたでしょうか。

次の技術情報「トランジスタ回路 どうやって設計するの?(2)」では、これまでのことをもう少し掘り下げてお話しする予定です。