なぜプリ管は三極管、パワー管は五極管?

 ギターアンプ用の真空管を調べてみるとプリ管とパワー管、二種類の名称が出てきます。プリ管と言えば12AX7、12AT7、12AU7、パワー管と言えば6V6、6L6、EL34あたりが代表格でしょうか。見かたを換えるとプリ管は三極管、パワー管は五極管となります。なんでプリ管は三極管でパワー管は五極管なんでしょう?

 パワー管ではその名前の通りパワーの出力を取り出します。電力増幅とも呼ばれるのですがパワーは電力の事ですから電圧X電流です。抵抗の小さいスピーカーを鳴らすには電圧だけでなく大きな電流も流さなくてなりません。五極管では三極管にさらにふたつのグリッドを追加しています。このふたつはスクリーングリッド、サプレッサーグリッドと呼ばれます。スクリーングリッドでは電子をさらに加速させ、そしてサプレッサーグリッドではプレートにぶつかった時に出る二次電子を反射させてプレートに効率良く送り込みます。これらの工夫によってパワー管では大きな電流を効率よく流すことが出来ます。また高い電圧を扱えるようにプレートは距離を取って配置され、その分大きな形になっています。大きな電力を扱うと真空管はたくさん発熱しますから、放熱のために表面積を大きくしなくてはなりません。そんな訳でパワー管には形も大きく電流が流せる五極管が使われているんですね。これに対し三極管は電圧増幅を担う事が多いです。スピーカーを駆動しない、例えば入力抵抗の大きい次段の真空管を動かそうとする時には電圧だけ伝えれば済むのです。三極管がパワー管として使えないわけではありませんが、ギターアンプでは大出力の要求が強いのでパワー管には多くの場合五極管が使われています。
 そんな理由はありますが、今回は三極管と五極管の特性面の違いに焦点を当てて少し違った側面からお話ししたいと思います。

 まず三極管と五極管の回路記号を見てみましょう。
 図1に三極管の回路記号を示しました。三極管はひとつのカソード③とひとつのグリッド②、それにひとつのプレート①の計三つの部品から出来ていています。特に図1の様に二つの三極管をひとつにまとめたものを複合管と呼んでいます(みっつをまとめたものもあります)
 図2に五極管の回路記号を示しました。五極管はひとつのカソード⑧と三つのグリッド④⑤⑧、それにひとつのプレート③の計五つの端子で出来ていています。この真空管ではカソードと三つ目のグリッドが⑧の端子ひとつにまとめられています。

三極管と五極管の回路記号

 それでは三極管と五極管の特性の違いを見てみましょう。
 図3と図4はどちらもパワー管でよく使われる6L6-GCのEp:Ip特性です。共に縦軸がプレート電流を横軸がプレート電圧を示しています。複数ある線はグリッド電圧の違いによるものです。左右で全く異なる真空管の特性に見えますが図3は6L6-GCをそのまま五極管として使い、図4は三極管(三極管接続)として使った時の特性です。比較の為には同じ真空管を使った方が良いと考え、接続の方法で三極管:五極管と特性を変えて比べています。この時の接続の様子を図5と図6に示しました。

 もう一度、図3と図4を見てください。負荷線(ロードライン)としてプレートの電圧が0Vで電流が80mAの点と400Vで0mAの点を赤い線で結んでいます。これはプレートに5KΩの抵抗を入れて400Vの電源に接続した時の負荷線です。グリッド電圧が0Vの線と負荷線が重なる所に青●、グリッド電圧が-40Vの線と負荷線が重なる所に緑●を書き込みました。グリッドには-40Vよりさらに下げた電圧を入れることも出来るのですが、逆に0Vより上にあげることは出来ません(0Vより上げる回路もありますが多くのギターアンプでは回路的に上げられません)。そこで青●に注目してください。五極管ではプレート電圧を25V付近まで下げる事が出来ますが三極管接続では110V付近より下げることが出来ません。※1 この時のプレート電流を見てみると五極管では75mAまで上げることが出来ますが三極管接続で58mA以上は流せません。これは三極管接続では五極管ほどパワーを上げられないという事を示しています。パワー(電力)は電圧X電流ですが三極管ではその両方が小さくなるわけです。三極管は出力のプレート電圧が下まで落ちにくいのですが、逆の見方をすれば自己バイアスで電圧の下の方を使っても気にならないともいえる訳です。
三極管は単純に形が小さくてパワーが取れないというわけではないんですね。

※1 ここでは説明の都合上プレート損失及びスクリーングリッド損失に付いては考慮していません。

三極管と五極管の静特性
三極管接続

それではパワーの取れない三極管を使う意味はあるのでしょうか?

 図7を見てください。赤い負荷線とグリッド電圧との交点に印を付けました。この点から横軸をグリッド電圧、縦軸をプレート電流にしてグラフにしたのが図8です。五極管と一緒に三極管接続も同様の手順で橙色の線で重ねてみました。ここからふたつの事が見えてきます。ひとつは三極管接続の方が傾きが緩やかです。もうひとつは三極管接続の方が直線的です。五極管では特にプレート電流が小さい部分で大きく曲がっています。

プレート電流:グリッド電圧特性

 この図に信号波形の絵を追加したのが図9です。グラフ内のそれぞれの線はグリッドの電圧の変化に対するプレート電流の変化、つまり入出力の関係を示していますから入力にSin波を入れた時の出力の波形の形が分かります。五極管の場合を示しましたが、三極管の場合も想像がつくと思います。五極管では出力の下側が歪んで、三極管では歪が少ない結果になります。直線性の良いプレート電流が大きいところだけを使う(A級動作と言います。常に沢山の電流を流しておきます)方法もありますが、パワーが欲しいギターアンプでは使われることは少ないです。結果、ギターアンプの出力は五極管のプレート電圧を十分に下げることが出来る固定バイアス(※2)、そしてプシュプル接続(※3)で使われる事が多くなります。

※2 自己バイアスでは五極管、三極管に関わらず、カソード:グランド間に抵抗を入れるため大きな信号を入れてもプレート電圧を0Vまで下げることが出来ません。
※3 プシュプルに付いては今回触れていません。興味のある方は別の記事もご覧ください。

三極管と五極管の歪

まとめると
・三極管は自己バイアスが適していて直線性の良さが自慢
  パワーはいらないけど本数をいっぱい使うプリでは複合管に出来るのも魅力
・五極管はパワーを取るのが得意で固定バイアスでさらに高パワーを狙える
  直線性はプシュプル回路を用いて改善
どうでしょうか?プリ管は三極管、パワー管は五極管が使われている理由がより良く見えてきましたでしょうか。

最後に少し追加して終わらせていただきます。
 パワーを考える時に、図3で0Vから立ち上がる線の角度が急峻なほど有利になります。この立ち上がりを改善する方法のひとつがビーム管構造だそうです。ビーム管は五極管の一種で6L6、6V6が有名です。ビーム管はパワーを取るために工夫された真空管(五極管)なのです。
 真空管の外形はST管→GT管→mT管と小さくなってきました。しかしパワー管は発熱が多いため外形を小さくできずGT管(下に黒い台が付いている形)のままになっているのだと思われます。
 歪を考える時に負帰還(ネガティブフィードバック)は大変重要な要素ですが、今回の説明の中には含ませていません。また三極管ではカソードに自己バイアスの抵抗を入れる事でも負帰還が作用します。興味のある方は負帰還に付いてもぜひ調べてみてください。
 パワー管(スピーカーを駆動する最終段の真空管)に三極管は使えないというわけではありません。ギターアンプでは出力の大きさを重要視していた時代背景からも多くの場合五極管が使われてきました。オーディオアンプではパワー管に単独での直線性が良いことから三極管が使われることもあります。

※ 図はGEの仕様書から一部抜粋して使わせていただきました。実際に使う時には仕様書をよく確認したうえで使っていただけます様お願い致します。また本ページで説明していることはGEが保証している事ではありません。