最大出力(W)を変えるってどうやってるの?

ギターアンプには最大出力※1を変える機能を持ったものがあります。これらはどういった仕組みで実現しているのでしょうか?その種類を上げて説明してみます。

私が知っているのは以下の5種類です。
 1) アッテネーター(減衰器)を用いる方法 ※2
 2) 出力段のプレート電圧を変える方法
 3) 出力管を五極管接続と三極管接続に切り替える方法
 4) 出力管の本数を変える方法
 5) 出力管の入力を制限する方法
それでは順番に見ていきましょう。

※1 最大出力に付いては先の投稿「最大出力(W)ってなに?」をご覧ください。
※2 アッテネータ―やロードボックスのなど名称でいろいろなメーカーから工夫された沢山の製品が出ています。ここではアンプに内蔵された比較的簡単なものに付いて説明させていただきます。

1) アッテネーター(減衰器)を用いる方法

回路ブロックイメージ アッテネーター

本来スピーカーを付ける部分にアッテネータ―を付けその先にスピーカーを付けます。
アッテネータ―とは減衰器のことです。

波形確認 アッテネーター

アンプから出力される波形の形を維持したまま大きさを変えることが出来ます。出力段の真空管で歪ませて使いたい場合は、アッテネーターで大きく絞り込めるこちらのタイプ一択になります。ただしアンプからみて繋がって見えるのはスピーカーではなく純粋な抵抗となるので、どうしても音のニュアンスが変わります。また、回路の都合上、無段階に大きさを変えることが出来ません(市販の外付けアッテネータ―ではこの辺りを工夫したものがあります)。

回路イメージ アッテネーター

図1-3Aと図1-3Bに回路図での様子を示してみました。一般的なアッテネータ―は抵抗で構成されます。抵抗には大きな電流が流れるため、抵抗の外形も大きくなります。

※ 本資料中の回路は、これ以降も簡潔に表現するためにバイアスや抵抗を省略しています。

2) 出力段のプレート電圧を変える方法

回路ブロックイメージ プレート電圧可変

内部にある出力管のプレート電圧を可変する方法です。緑の部分に出力管があります。

波形確認 プレート電圧可変

プレートの電圧を下げることで出力管から出る波形の大きさの最大値が小さくなり、最大出力を抑えることが出来ます。ただし、プレート電圧を変えたからと言ってアンプの増幅率は大きく変わりません。信号が小さい時(緑の波形)では、電圧を下げても音の大きさも大きく変わりません。実際には帰還回路※3の働きによってさらに差が小さくなります。

※3 帰還回路に付いては別の機会に説明させていただきます。

回路イメージ プレート電圧可変

図2-3Aと図2-3Bに回路図の様子を示してみました。切り替えのスイッチでプレート電圧が切り替えられるようになっています(本図ではスイッチは略させていただきました)。

電圧を下げた時の最大出力の変化を確認してみましょう。ここでは出力トランスの一次側インピーダンスを仮に1.4KΩとおいています。プレート電圧が無信号時450Vの時には、信号が入ると450Vを中心に最大で0Vから900Vまで振れます。※4 これ以上の電圧では上下がクランプされた波形になります。
最大出力=プレート電圧(実効値) X  プレート電流(実効値)
    =プレート電圧(実効値) X (プレート電圧(実効値)/ 1.4KΩ)
    =900Vpp / 2 / √2  X { ( 900Vpp / 2 / √2)  / 1.4KΩ }
    =72W 
同様にプレート電圧を300Vまで下げた場合を同様に計算すると
最大出力=32W  になります。
プレート電圧は半分まで下がっていませんが最大出力は半分程度まで下がる事が分かります。

 ※4 実際にはプレート電圧は0Vまで下がりません。また900Vまで上がりません。計算は概算になります。

3) 出力管を五極管接続と三極管接続に切り替える方法

回路ブロックイメージ 五極、三極管接続切替

出力管を五極管から三極管に切り替えることで最大出力を抑えます。

波形確認 五極、三極管接続切替

三極管接続ではプレートの電圧が下まで落ちなくなっており、結果最大出力を抑えることが出来ます。アンプの増幅率も落ちますので同じボリュームツマミの位置で音が小さくなりますが、帰還回路の働きもあって大きくは変わらず感覚的にほとんど違いは分からないでしょう。

回路イメージ 五極、三極管接続切替

図3-3Aと図3-3Bに回路図での様子を示してみました。スクリーングリッドの接続先をプレートに接続することで三極管接続になります。切り替えはスイッチで行います。

特性図 五極、三極管接続切替

どうして三極管接続にするとプレート電圧が落ち難くなるのでしょう。
図3-4Aと図3-4Bに五極管接続と三極管接続の違いを特性図※5で表してみました。
図3-4Aは五極管の特性です。プレート電圧が450Vで0mAとプレート電圧が0Vで300mAの所を線で結んでいます。プレート電圧の最小は、グリッド電圧の最大値0Vとの交点になりますから50Vが最小となります。プシュプル回路の波形は上下がだいたい対象になります。従いましてプレートの信号振幅は最大で800Vppです。
図3ー4Bは三極管接続の特性です。五極管接続の時と同様に450Vで0mAと0Vで300mAの所を線で結んでいます。プレート電圧の最小も、五極管の時と同様にグリッド電圧の最大値0Vとの交点になりますから220Vが最小となります。従いましてプレートの信号振幅は最大で460Vppです。
結果、最大出力振幅は460V/800Vに、最大出力は前の式V X I = V X (V/R) = V^2 / R から(460V/800V)^2に減少します。

※5 特性図はGE社規格表 6L6-GCより引用させていただきました。

4) 出力管の本数を変える方法

回路ブロックイメージ 出力管本数切替

出力管の本数を切り替えます。だからといて出力管を抜き差しする必要はありません。スイッチで本数を切り替える仕組みになっています。

波形確認 出力管本数切替

出力管の本数を変えただけでは最大出力は変えられません。仕組みはこの後に説明しますがアンプの増幅率も落ちますので同じボリュームツマミの位置で音が小さくなりますが、帰還回路の働きもあって大きくは変わらず感覚的にほとんど違いは分からないでしょう。

回路イメージ 出力管本数切替

図4-3Aと図4-3Bは出力管を2本から4本にした時の回路を示しました。よく見ていただきたいのですが、真空管を増やしただけではありません。8Ωのスピーカーを16Ωのスピーカーを接続するところに繋いでいます。4Ωのスピーカーを使っているように見える訳です。ところでトランスを変えてはいませんから、一次側と二次側のインピーダンスの比は変わりません。従って一次側のインピーダンスは半分の0.7KΩになります。この時の電圧振幅900Vppは変わりません。1.4KΩから0.7KΩに負荷が小さくなってプレート電流を2倍引かなくてはなりませんから真空管の本数を2倍にしたと考えることも出来ます。
この時
最大出力=プレート電圧(実効値) X  プレート電流(実効値)
    =プレート電圧(実効値) X {プレート電圧(実効値)/ 0.7KΩ }
    =900V / 2 / √2 X { ( 900V / 2 / √2 ) / 0.7KΩ }
    =144W  ※6

 ※6 実際にはプレート電圧は0Vまで下がりませんし、また900Vまで上がりません。結果真空管6L6を使った場合で2本の時に50W、4本で100W程度になります。

5) 出力管の入力を制限する方法

回路ブロックイメージ 出力管の入力を制限

出力管に入る前の信号の大きさを制限して最大出力を変えます。

波形確認 出力管の入力を制限

最大出力の大きさを連続的に変えることが出来ます。ただしプレートの電圧を変える例と同様アンプの増幅率は大きく変わりません。信号が小さい時(緑の波形)では、電圧を下げても音の大きさも大きくは変わりません。

回路イメージ 出力管の入力を制限

図5-3Aと図5-3Bに回路を示しました。出力管の前に振幅を制限するための三極管を配置します。この三極管には信号は通らず電流源として働き、前段の振幅の最大値を抑えて最終的な最大出力を制限します。

以上見てきたように最大出力をコントロールする方法はいろいろあります。ただしボリュームを例えば9時にした状態で最大出力を切り替えても、アッテネータ方式を除いてその時の音の大きさはあまり変わらない点に注意が必要です。実際のアンプではいろいろと工夫されたものがありますので、それぞれのアンプで確認してみてください。