ギターアンプにも使われてるオペアンプ。 それってどう動くの?

 最近では真空管アンプであってもモデリングが可能なものではオペアンプを内蔵しています。オペアンプも真空管と同様に奥が深いものですが、回路図をみて動きを想像するのはそれほど難しいことではありません。今回はその足掛かりとなる様にオペアンプのイマジナリーショートの概念を使ってどのように動くか説明したいと思います。

オペアンプの回路図上の表記

 まずオペアンプに付いて簡単に説明します。オペアンプは回路図上で図1の様に三角形で表され、ふたつの入力とひとつの出力を持ちます。ふたつの入力は+と-があります。電源とGNDも持っているのですが、回路図を見やすくするために省略されることが多いです。図1aは電源を省略せずに、図1bでは省略して書かれた例を示しました。(コンパレータも同じように表されますが今回はオペアンプを中心にお話しさせていただきます)

回路図の中のオペアンプ

差動アンプに付いて

 差動アンプは普通のアンプのイメージと異り+と-のふたつの入力を持っています。オペアンプも差動アンプのひとつです。オペアンプを理解するためにまず差動アンプを図2を使って説明します。アンプのゲインは説明の都合上2倍としています(通常のオペアンプのゲインは数百倍あります)。図2aを見てください。+入力に1.5V、-入力に1Vが掛かっていますから差の電圧は0.5Vで2倍の電圧の1Vが出力に現れます。図2bを見てみましょう。+入力に3.5V、-入力に3Vが掛かっていますから差の電圧は図2aと同じ0.5Vで2倍の電圧の1Vが出力に現れます。入力はGNDからの高さとは関係なく、+と-の差電圧だけをゲイン倍します。もう少し見てみましょう。図2cでは+入力に4V、-入力に4.5V掛かっています。今度は-側の電圧の方が高くなりました。差電圧は-0.5Vで2倍の電圧の-1Vが出力に現れます。勿論、差動アンプ(オペアンプ)の出力がGNDより低くなっても動作するように工夫しておく必要があります。この場合は±の電源、例えば+5Vとー5Vの電源を使う事で-1Vの出力が可能となります。

差動アンプの説明

イマジナリーショート

 図3を見てください。-入力が出力と結ばれています。どう動くか考えてみましょう。

オペアンプの負帰還とイマジナリーショート

 出力電圧が+入力電圧より仮に低いとします。この時、出力電圧は-入力に戻されていますから、+入力は-入力より高い電圧になります。これまでの説明から出力の電圧は上昇することが想像できます。出力電圧が上昇して+入力電圧を超えると今度は出力電圧が下がります。出力は-入力に戻されていますから再び上昇しようとします。最終的には入力と出力の電圧は等しくなります。簡単な式を立ててみましょう。前の例に倣ってゲインを2としてみましょう。
((+入力) - (-入力)) X ゲイン = 出力   ・・・ -入力と出力は同じですから
((+入力) - 出力 )X 2 = 出力
(+入力)            = 出力   /  2 + 出力
になります。ゲインを大きくすればするほど出力電圧は+入力電圧に近づきます。実際のオペアンプではゲインが数百倍の値になっています。差動アンプのゲインが極端に高いものがオペアンプと考えてもらってよいかと思います。従って図3をオペアンプで構成すると入力電圧がほぼそのまま出力される回路(バッファ回路)が出来ます。そして、この様に出力から-入力に戻すことをネガティブフィードバック(負帰還)と呼んでいます。別の見方をしてみましょう。+入力と-入力はほぼ同じ電圧になりショートしているように振舞います。これをイマジナリーショートと呼んでいます。
補足:理想的なオペアンプ
1)入力に電流が流れない(入力インピーダンス無限大)  2)ゲインが無限大
としました。(実際には細かな事がもっとあります)

オペアンプの基本回路

 それでは、最初にお話しした通りイマジナリーショートの概念を使ってオペアンプの動作を説明していきましょう。

非反転アンプの動作を、イマジナリーショートを使って説明

 図4aを見てください。-入力と出力が抵抗Rf(5KΩ)でつながっていますから負帰還の回路が構成されています。負帰還が掛かっている状態では-入力の電圧が例えば上がると出力が下降し再び-入力に戻ります。そして-入力が電圧が下がると・・・、結果前の例と同様に-入力と+入力は同じ電圧になります。今+入力が1Vですから-入力もイマジナリーショートで1Vになります。抵抗Ri(1KΩ)の右側が1Vで左側が0Vですから右から左に向かって電流が流れます。この電流はオームの法則で I=E/Rですから1mAになります。この電流はどこから流れてくるのでしょうか?前のページで理想的なオペアンプは入力に電流が流れないと書きました。そういうものだと思ってください。となると電流はRfを流れてきます。Rfの両端の電圧差は1mA X 5KΩ = 5V。結果、出力の電圧は-入力の1VにRfの両端の電圧5Vを加えた6Vになります。
 図4bを見てください。+入力が0Vですから-入力も0Vです。Riに電流が流れませんからRfにも電流が流れず、両端の電圧は0Vです。従って出力も0Vです。
 次に図4cを見てください。+入力が-1Vですから、-入力も-1Vです。Riの左側は0Vですから、I=E/Rで1mAが左から右に向かって流れます。この電流はRfを通りますから両端の電圧は5Vですね。出力の電圧は-入力の電圧からさらに5V下がって-6Vになります。
 以上の事から図4は6倍のアンプが構成されていることが分かります。また、ゲインはRf/Ri+1 になることが理解できると思います。
 疑問も出てきますね。オペアンプのゲインは数百倍あるとの話はどこへ行ってしまったんでしょうか?どこにも行っていません。帰還を掛けて使っているのでゲインはイマジナリーショートを達成するために使われ外の抵抗で決まっているのです。そしてオペアンプ自体の大きなゲインをオープンループゲイン、帰還を掛けた時のゲイン(この場合は6倍)をクローズドループゲインと呼んでいます。気が付かれた方もいると思いますが、オペアンプを使う事で難しい回路を考えなくても自分の好きなゲインのアンプが簡単に作れます。だから多くの人がオペアンプを使うのです。
 それと、今説明したアンプは入力が大きくなると出力が大きくなることから非反転アンプと呼ばれています。なんで非反転? 実は反転アンプと言うのもあるんです。

反転アンプの説明

それでは図5を見てください。前の回路との違いは+入力が常にGNDになっていること、入力信号は抵抗Riの左側になっていることです。-入力は、イマジナリーショートで常に0Vですね。で、図4と同じように動作を考えてみましょう。出力信号の向きは入力と逆で、ゲインはRf/Ri=5倍となりましたでしょうか。向きとゲイン共に変わっています。出力の向きが入力と逆になっていることから、このアンプを反転アンプと呼んでいます。

応用例

 どうでしょうか。イマジナリーショートで考えるという事を分かっていただけたでしょうか?  ここからは応用例を三つ説明していきたいと思います。

オペアンプの応用例を説明

 図6aは非反転アンプにCfが付いたものです。非反転アンプのゲインはRf/Ri+1でした。コンデンサは高い周波数で抵抗値が小さく見えます。私は動作を考えるとき極端な条件を想定して考える様にしています。周波数が高いとCfは0Ωになりますからゲインは1倍になります。周波数が低いとCfはオープンに見えますからゲインはRf/Ri+1ですね。従って6倍と1倍の間を動くLPF(Low Pass Filter)を兼ね備えた非反転アンプの回路である事が分かります。
 次は図6bを見てください。やはり非反転アンプですがRfに並列に二本のダイオードD1とD2が付いています。ダイオードは約0.7Vで両端の電圧を制限します。従ってゲイン倍された入力が0.7V以上の振幅になるとそれ以上はクランプされて大きくなれません。大きな入力が入るとSin波であれば上下を切り取られた歪んだ波形になります。わざと歪ませるために使われたりします。
 次は図6cを見てください。今度は少し複雑です。まず最初に反転アンプである事に気が付きます。次に+入力ですが、VCCの5Vを抵抗R1とR2で分割した2.5Vがつながっています。これまでは±の電源を使うことを前提としていました。この回路では信号の中心が2.5Vで動くことから、例えば5Vの電源ひとつで動かすことが出来ます。Cbは電源にノイズがあっても+入力が振れない様に付けられています。信号は例えばギターからの波形の様に0Vを中心に振れている場合、2.5Vを中心に振れる様に変えなくてはいけません。それを実現するのがCi(カップリングコンデンサ)で信号成分だけがコンデンサを通過して波形の中心が2.5Vに置き換わります。差動アンプの説明では入力に信号がない時は出力が0Vとお話ししました。この回路では信号がない時に出力は2.5Vになる点に注意してください。つまり0V中心の入力信号が2.5V中心でゲイン倍された出力信号に置き換わるイメージです。

 オペアンプの使い方には今回お話しした以外にも発振器や2次フィルターなど様々なものがあります。ただ、複雑になってもイマジナリーショートの概念は変わりませんので理解するときの助けになればと思っています。