カソード接地の接地ってなに?
真空管のバイアス調整や回路の話になるとカソード接地など接地という言葉が出てきます。この接地とは何を意味するんでしょう? 実は接地もGNDもアース(又は共通のライン)の事なんですが、ここでいうカソード接地の接地は、カソードという言葉と一緒に使うことで真空管の使い方を表しているんです。それでは説明していきましょう。
三種類の接地
回路の種類と言えば増幅回路(アンプ)、差動増幅回路(オペアンプ)、発信回路、同調回路、・・・・・ 様々な回路があります。これらの構成要素に抵抗やコンデンサなどに加えて真空管も含まれるのはご存じの通りですが、その時の真空管の使い方に付いて考えるとき、それは三種類しかないのをご存じでしょうか? 三種類の使い方ですべての回路は出来ているんです。その三種類の使い方こそが
1)カソード接地(エミッタ接地、ソース接地なども同じ)
2)グリッド接地(ベース接地、ゲート接地なども同じ)
3)プレート接地(コレクタ接地、ドレイン接地なども同じ)
なのです。つまり、接地とは先にも書きましたがGNDとかアースの事ではあるんですが、カソード接地の接地は、カソードの名前と合わせて真空管の使い方のひとつを表しているんです。 (整流管、ダイオードは別です。また真空管やトランジスタのダイオード接続は別です)
私事で恐縮ですが、これらの詳細は回路を少し設計できるようになってから知りました。これってカデンツと作曲の関係に近いかなぁと思ったりします。ギターでコードを弾いていて楽しんでいて、次に簡単な曲を作ってみる。そのあとドミナントとかトニックとかの話を聞くと、そういえばそうだね みたいな感じでしょうか。ですからこれらを知らなければ設計も修理もできないというわけではありません。でも、回路を知りたい、設計したいなんて人は細かなことは置いといてやはり分かると自信になりますから、概念だけでもわかっておいて損はないと思います。
それでは図1を見てください。拡声器です。マイクと増幅器(アンプ)それにスピーカーが一緒になったものですね。(2)はマイクとアンプとスピーカーを分けてみました。(3)はさらに共通に出来る部分を一本にしてみました。この一本になった部分をGND又は接地と呼んでいます。 (4)ではアンプに接続される部分を、入力、出力、接地の三種類の名前で表してみました。ここで大事な点は、アンプは入力と出力と接地の三つでできていることです。そしてもう一つ重要なことは、ここではバッテリーを考えていない事です。あくまでも入力と出力を中心に考えています。
まず、真空管の使い方に次の約束事があります。 ( )内は通常のトランジスタとMOSトランジスタの場合です。
1)グリッドは出力には使えない(ベース、ゲートなども同じ)
2)プレートは入力には使えない(コレクタ、ドレインなども同じ)
何となくイメージしてもらえますでしょうか?
イメージできない場合は図を見てイメージを作ってくださいね。
そこで真空管の接続の仕方すべてを図2に並べてみました。全部で6種類です。
この内、先の約束事から三種類が残ります。それぞれカソード接地(1)、プレート接地(2)、グリッド接地(3)と呼ばれています。
具体的な回路例
もう少し具体的な例を書いてみます。ギターアンプで良く使われているものを例にしました。ここまで来てすみませんが接地とGNDの意味を修正しなくてはなりません。ここでいう接地とGNDとはAC的な接地でありGNDです。ACーGNDとも呼ばれ、信号が乗らないという意味で使われます。従って電源も信号に付いて考えるときは接地になります。
それでは見ていきましょう。
図3は全てカソード接地の例を示しました。(1)は分かりやすいかと思います。出力はプレートから取り出します。従って電源との間に抵抗を繋げてこの間を出力にします。(2)はカソードと接地の間に抵抗が入っており自己バイアスとなっています。カソードは等価的に抵抗(1/gm)を持ちますからこの場合は等価な抵抗と外付けの抵抗が直列に入って見えます。ゲインはその分落ちます。(3)は外付けの抵抗にコンデンサが付けられています。信号成分はこのコンデンサで接地されますからゲインは(1)と同じgmX負荷抵抗になります。(4)は差動構成にしたものです。それぞれがカソード接地で信号の向きを逆相にして入力します。左右のカソードの中間点CKの電圧は変化しませんから(3)で用いたコンデンサは不要となります。
図4はプレート接地です。(1)はプレートがGNDではなく電源に繋がっていますが、プレートの電圧は動きませんので接地(AC-GNAD)されているとみなします。出力はカソードから取り出します。カソードフォロアと呼ばれることもあり、ゲインは約1倍で出力インピーダンスはgmとカソードに付けられた抵抗の並列になります。(2)は例として書いたものです。プレートと電源間に付けられた抵抗が小さい場合、抵抗の記号が書いてあっても接地されているとほぼ同等でありプレート接地となります。カソードが直接外に出る場合など、保護の目的でこのように抵抗を入れることがあります。
図5(1)はカソードから信号を入力します。これまで入力であったグリッドには電源が接続され、プレートから出力されます。グリッドはGNDではありませんが、プレート接地の時と同様にグリッドの電圧は動きませんからグリッド接地となります。
結局全てカソードがGNDに接続されているじゃないかと思われるかもしれません。その場合はもう一度入力と出力それに接地の位置関係を見直してみてください。
これらの考え方は五極管でも同様です。増えた二つのグリッドの内ひとつはカソードと結ばれ、もうひとつは電源源電圧が印可され、結果三極管と同じ三つの端子を使うことになります。
応用回路例
最後に応用例を書いて終わりにしましょう。
図6(1)を見てください。グリッドからのひとつの入力に対してふたつの出力があります。カソードからの出力はプレート接地(カソードフォロア)として出力されます。プレートからの出力はカソード接地として出力されます。この二つの位相(信号の向き)は逆相になっていることに注意してください。プシュプル回路の入力波形作成にギターアンプでも使われます。(2)は二つの真空管が使われています。まず上側の真空管が無いと仮定します。下側の真空管はカソード接地になっていることが分かると思います。上側の真空管は下の真空管のプレート電流が通り抜けていくだけです。上側の真空管はグリッド接地になっています。一見上側の真空管は意味がないように見えますが、寄生容量がゲイン倍(ミラー効果と言いますが今回はこれ以上触れません)になることを防ぎ、高域特性を改善するために使われます。
どうでしたでしょうか? 接地の意味と、真空管(トランジスタ)の回路は三種類の接地の仕方で構成されている事がお分かりいただけましたでしょうか?
※ 今回の絵は「いらすとや」さんのホームページからフリーの素材を使わせていただきました。