トランジスタ回路 どうやって設計するの?(2)

オリジナルのエフェクタ―を作るために設計したい、これまでオペアンプは使ってきたけれどトランジスタで設計となるとまるで分からない、そんな方は多いのではないでしょうか。また、電子工学を学んだけど数式ばかりで理解できなかったという方もいると思います。本技術情報では、まずトランジスタの設計方法を体感的に理解してもらいます。するとこれまで分からなかった電子工学の教科書も、知らず知らずのうちに理解できるようになっているはずです。今回はreとgmの意味と使い方に付いてお話しします。

 前回は2倍のアンプを作りました。このアンプに付いてもう少し掘り下げてみましょう。図1a、1b、1cを見てください。右に向かってベースの電圧をどんどん下げていきます。電流は常に同じになるようにR1を調整します。ゲインはR2/R1でしたからどんどん上がっていきます。この調子でR1を0になるまで減らしたらゲインはどうなるでしょう。実はR1が0になってもトランジスタの中の抵抗が残ります。配線などの物理的な抵抗ではありません。内部のダイオードが見えてくるんです。

reの説明。ベース電圧を下げていった時の様子。

どういうことか説明しましょう。
前回説明したブラックボックスを図2aに、電池をダイオードに置き換えたものを図2bに書いてみました。前回は0.7V一定とお話しした部分がダイオードだったんです。NPNトランジスタのベース(P)とエミッタ(N)の間に出来たダイオードです。

reの説明。内部はダイオードで置き換えられる。

このダイオードに付いて少し説明してみます。

reの説明。ダイオードの等価回路

図3のダイオードの順方向電圧Vf と順方向電流Ⅰf の関係は次の式で表されます。

Vf=Vt・ln(Ⅰf / Ⅰs)

Vt=(K・T) / q
K=1.38x10-23  ボルツマン定数
T= 絶対温度
q=1.602x10-19 電子の電荷量

そして
Is= 逆方向飽和電流 ・・・ ※1
    素子の作り方や大きさで変わりますので、ここでは1x10-14を使います。

※1 これまで逆方向に電流は流れないとしてきましたが実際にはわずかに流れます。この電流を逆方向飽和電流と呼んでいます

エクセルを使ってVfのグラフを書いてみます。図4を見てください。
先の図1a、1b、1cではエミッタの電流が2.3mAでしたのでグラフの中に線を引いてみます。
このグラフでは横軸が電圧、縦軸が電流です。電圧と電流から抵抗を求められるはずです。ただし、通常の抵抗は電圧を2倍にすれば電流も2倍になりますがこのグラフは曲線になっています。それでも2.3mAの時に限れば、この時の電流の傾きが抵抗になる事が想像できると思います。つまり、傾きですから微分してこの傾きを計算してみましょう。

ダイオードの特性グラフ

抵抗は⊿V/⊿Iですから式を微分して求めます。

reの微分式

※2 Vf=Vt・ln(Ⅰf / Ⅰs)のVfをV、ⅠfをⅠに書き換えています

結果、エミッタのダイオードの等価な抵抗は
=Vt / Ⅰ    (Ⅰはエミッタの電流)
になります。

VtはVt=(K・T) / qですから電卓で計算しておきましょう。定数と温度を掛けたものですから温度が変わらなけれは一定の値です。T=300度(27℃)で26mVになりました。ここでVtは絶対温度に比例することを覚えておきましょう。
エミッタの抵抗はVtと電流2.3mAから26mV/2.3mA=11.3Ωと計算できます。このエミッタの抵抗のことをre(スモール アール イー)と呼びます。小文字で書いているのは、電流で変化するつまりAC的な抵抗である事を表しています。 ※3

※3 ジャンクションFET、MOSトランジスタ、真空管などでは名称や求め方その特徴は異なりますが考え方は同じです。

ここまで難しそうな式が出てきましたが、これらを覚える必要はありません。
次のふたつだけ覚えておいてください。
1) reは26mV(Vtの値です)をエミッタ電流で割ると計算できます
2) reは絶対温度に比例します ・・・ ※4

※4 Vf=Vt・ln(Ⅰf / Ⅰs)の式の中ではⅠsの温度依存が大きいのですが、reを微分して求める中でⅠsは消えてVtの温度依存だけ残りました。

reを用いたトランジスタ等価回路

reに付いて分かったところで、これまでの回路を少し書き直してみましょう。図5をご覧ください。reはこの様にトランジスタの内部に入っているイメージです。
この回路のゲインはこれまでR2/R1としてきましたが正確にはR2/(re+R1)になります。R1がreより十分大きな時はreを無視できます。R1をどんどん小さくして0になるとゲインはR2/reになります。

バイパスコンデンサとgmの考え方

それではもうひとつ見てみましょう。図6aはエミッタとグランドの間にコンデンサを追加した例です。ベースに信号が入ってエミッタの電圧を揺らしてもコンデンサによってエミッタが動かないようしています。違う見方をするとエミッタに現れた信号だけグランドにショート(バイパス)してしている様にも見えます。このコンデンサのことをバイパスコンデンサと呼びます。コンデンサの働きによりR1は見えなくなるのですが、図6bの様にまだreが存在します。
この時のゲインは先の例と同じ
Gain = R2 / re = R2 X (1 / re) ※4
となります。
 式の中の reの逆数(1 / re)をgm(ジーエム)と呼びます。
Gain = R2 X gm と書き換えることができます。
gmが分かっている時は、ゲインがすぐに求められるので便利です。

※4 トランジスタの中にも配線などの純粋な抵抗がありますから実際はもう少し小さな値になります。

今回はreとgmに付いてお話ししました。如何だったでしょうか。